
このピンイン教本では、ピンインの音の仕組みと発声の仕方に焦点を当てて、日本語発声との違いを知ることで、どこに注意を払って練習をすればピンインの発音を効果的に習得できるようになるか?をテーマにしています。
さて、今日の記事は次の問題からスタートします。
日本語の「す」はSuだけです。中国はSuとSiで表記される二つの「ス」があります。日本語とどこが違うのでしょうか?
こんなものだと思ってピンインの練習をしていたと思いますが、ちょっと立ち止まって考えてみますと、日本人の感覚では変だな!と思うことがいくつかあります。
原因は日本語ローマ字とピンイン、見た目そっくりでも、発音の特徴が全く違うからです。
日本語の音を漢字や平仮名で表したように、ローマ字はアルファベットで表した発音記号と言えます。ピンインも同様に発音表記体系として制定されています。
でもピンインは音を表す記号だけではなく、「言い方の記号」という別な特性を兼ね備えているようです。
母音を表すピンインは・・・・「口の開け方」の標識でもあります。例えば“a”は口を大きく開く、“i”は横に引くという形を表します。
一般のピンイン学習者にも理解できる分かり易い表現です。
専門家の論文ではこのことを次のように記述しています。
中国語の発音を教えることは難しい。その原因を考えてみると、中国語の発
音そのものの難しさの他に、ピンインという記号の理解のし難さがあるように思われる。
ピンインはその韻母について言えば、いわば、聞こえる音を記号化しているのではなく、言おうとしている音を記号化している。・・・
「言おうとしている音」とは、簡単に言うと、そのように舌を動かそうとしているということであり、…
http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/17287/spffl058-01.pdf
「聞こえる音を記号化しているのではなく、言おうとしている音を記号化している。」これが「口の開け方の標識」の意味するところです。
ローマ字との違いがこのピンインの「口の開け方の標識」という性格にあります。そのため次のようなことが生じます。
目次
その1:中国語の二つの「ス」

日本語の「す」の発音は一種類だけですね。ローマ字で表記すれば、子音のサ行(S)で母音が(U)の Su だけです。これは聞こえる音の表記ですから発音記号です。
中国語の「ス」の発音にもピンインで日本のローマ字と同じ表記になる、子音が(S)で母音が(U)の Su があります。日本語とほぼ同じような発音ですが、母音”U”の発音が、日本語の「う」と中国語「U」は口のすぼめ方が違いますから、似ているけどちょっと音のニュアンスが違います。日本語よりはこもった音の「Su」になります。これも聞こえる音を表しています。
あきらかに日本語にない「ス」の発音が「Si」の「ス」です。子音は「S」ですが母音が「i」です。日本語のローマ字であれば”Si”は「シ」になりますが、中国語ではどんな発音になるでしょうか?
「中国語発音教本(アスク出版)」p73ではピンインの”Si”の発音の仕方は次のように説明されています。
口の構え:口を真一文字に横に引く i の形 発音:口を横に引いたまま「ス―」と発音
さらに補足で次のように記述されています。 「Z・C・S」の音は、ピンインのつづりの上では「I」を付けた“Zi”“Ci”“Si”で表します。これは口を横に引く「形」="i"形で「ヅー・ツー・スー」という発音を表しており“i”(イ)という音は表していません。」
つまり「i」は音声の記号ではなく「口を横に引く「形」=”i"形」という言い方の標記でもあるということのようです。
要するに”Si”の"i"は短母音で発音するときの本来の"i(イー)"の音ではなくて、iの唇の形はそのままで、頭の中では(ウー)と発音してくださいということのようです。
中国語では先に述べた”Su”というピンインもあるので、その発音をするときは唇の形も”U”の形で音も本来の短母音の”U”で発音するようですので、これは日本語のSu(す)と似ています。
結果、ピンインにはSuとSiの二つのスがあることになります。
ee!chaiでは次のように説明します。

「Z・C・S」の子音グループを大変分かり易く説明した動画がありますのでご紹介します。
このお姉さん講師の説明は簡単ですが、的確です。

でもなんかスッキリしないのは、Siで「ス」と発音するのは、は日本語にはない発音の仕方だからです。”Si”で母音が"i"なら(シー)だろうと感じませんか?実際”Xi”のピンインは「アスクの中国語完全教本」ではp71で次のような説明です。
Xi➡ 口の構え:口を真一文字に横に引く i の形 発音:そのまま「シー」と発音です。
同じ母音の"i"が、あるときは「イ―」で別なケースでは「ウー」で、でも唇の形はどちらも表記の“i”だそうです。これって日本語の音声とは違う概念です。
でもピンインには「言い方の記号」「口の開け方の標識」というローマ字にはない特徴もあると分かれば、発音でどこに注意を払うべきかが分かります。

ピンインのアルファベットは音と合わせて覚えるだけではなく、ピンインを読む際(音声化する場合)アルファベットで表す口の形をしっかりと作らなければならないということになります。
皆さんは”Su””Si””Xi”を瞬時に言い分けて聞き分けられますか?さらに”Xu"も加わったピンインをきれいに言い分けられるでしょうか?うっかりして時には”Si”をシーと発音していませんか?また”Xi”も”Xu"もやはりシーと発音していませんか?
”Su””Si””Xi””Xu"の発音の仕方を解説し、モデル発音を載せた動画はYouTubeに沢山ありますから、練習はし易いですね。
それぞれの音の違い(口や舌の使い方)を頭の中で整理しましょう。
では次回からピンインの母音・子音の音の出し方を学びましょう。
補足のコメント
音韻論という、それぞれの言語がもつ音の仕組みを考える研究があります。ピンインについて「聞こえる音を記号化しているのではなく、言おうとしている音を記号化している。」このような分析は背景に音韻論が関係していて、上記で引用した論文では「ピンインは音韻論的記号であって、聴覚上の違いで字母を使い分けているのではないことによる。」と記述しています。
言い換えますと、ピンインは聞こえ方を単に記号にしているわけではなくて、音の仕組みの研究に基づいて構成されているということのようです。
音節という表現もピンインを学ぶときにはよく出てくる単語ですので、簡単にこんなことを言っているらしいということを知っておくだけでも、理解が深まると思います。
※字母(じぼ): コトバンクからの抜粋
(1)アルファベット、ハングルのように、子音字と母音字とがあって、音節をそれらの組合せとして書き表す文字の各字letter。字をつづり合わせて初めて語が書ける表記形式なので、その1字が表記の要素、基になるものという意味で字母とよばれる。‥
(2)中国の注音字母は、音節を声母(頭子音部/子音)と韻母(ときに末子音も添えた母音部/母音)とに分割して記す記号である
注音字母:中国ではピンイン、台湾でボポモフォ(注音符号)
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